遺伝性不整脈は遺伝する?確認方法や予防方法をご紹介

遺伝性と聞くと、「親から子へ遺伝する」のように、代々受け継がれるというイメージをお持ちではないでしょうか?
間違いではないのですが、遺伝性不整脈の遺伝性とは、“遺伝子の異常“のことです。

今回は、遺伝性不整脈の親族への遺伝の可能性についてご紹介いたします。

遺伝性不整脈とは?

人間の体は、遺伝子の情報をもとにタンパク質を作り出し、体を作り健康に維持しています。
そのため、遺伝情報に間違ったものが含まれると、作り出されるタンパク質が異常となり、目に見えて異常が出てくると“遺伝性の病気”になります。

遺伝性不整脈は、心筋細胞の膜にある、“電解質を調整するタンパク質の遺伝情報“に異常があります。心臓の動きは、心筋細胞の中で電解質が移動し、収縮や弛緩などを繰り返しています。
電解質とは、カリウムやナトリウム、カルシウム、クロールなどのことであり、細胞の内側と外側ではそれぞれの電解質のバランスが決まっています。

例えば、ナトリウムは細胞の外に多く存在しているのですが、心筋が収縮するときには細胞の中にナトリウムが急激に移動し、収縮が終わるとゆっくりと細胞の外に移動していきます。
このように心臓の動きは、電解質のバランスと移動によって、絶妙にコントロールされているのです。そして、電解質のバランスと移動を制御しているのが、心筋細胞の膜にあるタンパク質です。

先天性QT延長症候群は心筋細胞の膜にあるカリウムの通り道となるタンパク質の遺伝子に異常があります。
このタンパク質は、心臓が収縮した後、カリウムをもとのバランスに戻すためのものです。

そのため、心電図上では、心臓が収縮した後の部分を示す、QからT波にかけて異常が起き、このことから不整脈が起きやすい状態になります。

これまでの話をまとめると、遺伝性不整脈とは、「心臓の電解質を調整する遺伝子の異常により、電解質のバランスと動きに異常をきたし、心電図上での異常所見と不整脈が起きやすい状態を引き起こす疾患群」ということができます。

遺伝性不整脈は遺伝するのか?

では、遺伝性不整脈は遺伝するのでしょうか?

答えは、“遺伝することもありますが、わからないことも多い”です。

遺伝性不整脈の遺伝子の異常は、親から子へ受け継ぐものと、突然変異のように自然発生的に起きるものがあります。

親から子へ受け継ぐ場合は、遺伝形式(常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X連鎖性優性遺伝、X連鎖性劣性遺伝など)によって受け継ぐ頻度は変わります。
先天性QT延長症候群のほとんどは常染色体優性遺伝です。
生物の授業で習ったのを覚えていますか?
常染色体遺伝では、50%の確率で原因遺伝子を受け継いで、優性遺伝の場合は原因遺伝子を持っていると発症します。
そのため、常染色体優性遺伝では、50%の確率で原因遺伝子を受け継ぎ、病気を発症することになります。

先天性QT延長症候群では、常染色体優性遺伝の他に15%程度で遺伝子異常が自然発生する場合があります。
そのため、先天性QT延長症候群が親から子へ遺伝する確率は50%よりも少し多い57%程度と報告されており、明らかな遺伝が証明できない場合も少なからずあります。

先天性QT延長症候群以外の遺伝性不整脈では、原因遺伝子や遺伝形式かついて、ほとんどわかっていません。

ただ、患者さんの血縁関係にある家族の病気を持っている割合は、さまざま報告がありますので下記に載せておきます(家族歴:血縁関係にある家族の病気や既往歴のこと)。
詳しいことがわかっていない理由は、病気を持っている人が稀であること、突然死により詳しい検査ができないケースが多いことが、挙げられます。

遺伝性不整脈が遺伝するのか?に対する答えは、「病気ごとで遺伝形式が異なり、遺伝するものもあるが、わからないことが多い」となります。

遺伝性不整脈が遺伝する確率

遺伝する確率についてご紹介いたします。

先天性QT延長症候群57%
先天性QT短縮症候群不明(突然死の家族歴は10%)
ブルガダ症候群不明(突然死の家族歴は12%〜14%)
早期再分極症候群不明(突然死の家族歴は10%)
カテコラミン誘発多形性心室頻拍不明(94%は家族歴を認めなかった。一部上染色体優性遺伝をする原因遺伝子がある)

遺伝性不整脈の遺伝の確認方法

それでは、血縁関係にある方が遺伝性不整脈と診断された場合、どのようにしたら良いのでしょうか?

まずは、“病名”を確認しましょう。上でも述べた通り、不整脈は病気によって遺伝形式が異なります。

次に“遺伝子検査”について確認しましょう。

遺伝子検査が保険適用なのは、遺伝性不整脈の中でも先天性QT延長症候群のみです。
他に、ブルガダ症候群、カテコラミン誘発性多形性心室頻拍は自費診療で行われており、二次性QT延長症候群、QT短縮症候群などは、限られた研究所の研究費で行うことがあります。

いずれにしても、担当医師の判断で行われますので、遺伝子検査を実施したかどうかを確認し、原因遺伝子が分かった場合には、どのような遺伝形式を取るのか確認しましょう。

自分に遺伝性不整脈があるかどうかを確認するためには、“十二誘導心電図検査”が必要になります。
不整脈がなく無症状の状態でも、先天性QT延長症候群、ブルガダ症候群、QT短縮症候群などでは特徴的な心電図波形が見られます。現在、心電図検診は、学校検診や企業健診などで定期的に行われています。
遺伝性不整脈の可能性を指摘された場合には、循環器内科で精密検査を受けましょう。

心電図検診での注意点は、“1回の検査でわからないことがある”ということです。
心電図所見の出やすさ(わかりやすさ)は年齢によって異なります。

例えば、先天性QT延長症候群では中学1年での学校検診で最も頻度が多いと報告されています。また、検査の時の心拍数にも影響を受けます。
QT短縮症候群では、心拍数80回/分での検査が推奨されていますので、心拍数が早すぎる、または遅すぎる場合には、正しく診断できない可能性があります。これらのことから、1回の検診で正しく診断することはできず、継続的に定期的に健康診断で検診を受ける必要があります。

血縁関係にある方が遺伝性不整脈と診断されて、遺伝性の強い原因遺伝子が見つかった場合、他の家族へ遺伝子検査を勧める場合があります。
もし、そのような依頼が来ましたら、遺伝子検査は受けていただきたいと思います。

多くの場合、遺伝性不整脈は不整脈が起きてから診断されます。
遺伝子検査で事前に診断することができれば、不整脈を起こす前、特に突然死を起こす前から準備をすることができます。

遺伝性不整脈の予防方法

不整脈の予防方法は、遺伝性不整脈の種類、原因遺伝子、不整脈を起こしたことがあるか、家族歴があるか、などによって異なります。
一般的に行われているのは、“生活指導”です。

病気によって、情動ストレス、運動ストレス、聴覚刺激など、不整脈を引き起こす誘因が異なりますので、誘因となりうる刺激やストレスを避けるように指導されます。

次に、“薬物治療”です。
抗不整脈薬を使用して不整脈の発症を予防しますが、抗不整脈薬の副作用に不整脈がありますので、薬物治療の必要性は慎重に判断されます。

もし、これまで心室細動や心室頻拍など、危険な不整脈を起こしたことがある場合、“埋め込み型除細動器”を検討します。

これは、危険な不整脈によって、心臓突然死となることを予防する目的で使用します。
埋め込み型除細動器は、右胸(時に左胸)から太い血管を通して心臓に電極を置いて、不整脈を検知すると自動で電気的除細動を行う機械です。
体に機械を入れますので、危険な不整脈で突然死の可能性が高いと判断される場合にのみ、埋め込みを行います。

まとめ

今回は、遺伝性不整脈とその確認方法や予防方法についてご紹介しました。
今後も皆さんに役立つ情報を掲載していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

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