QT短縮症候群のお薬情報

QT短縮症候群(short QT syndrome: SQTS)は Gussak らにより2000年に初めて報告された症候群であり、著明なQT短縮とともに安静時、就寝時に心房細動(AF)、失神や突然死をきたします。

QT短縮症候群はきわめてまれな疾患であり、文献上では130例以上が報告されていますが、詳細な有病率は不明です。

男性においてはQTc(Bazettの式で心拍数補正された補正QT間隔)が<330 msec、女性では<340 msecの場合はQT短縮症候群を疑う必要があると考えられます。

図1.心電図波形

QT短縮症候群は常染色体顕性遺伝性疾患であり、現在までに6つの遺伝子変異が報告されています。

遺伝子のKCNH2、KCNQ1、KCNJ2、CACNA1C、CACNB2b、CACNA2D1に変異がある疾患をそれぞれSQT1~SQT6と呼びます。
遺伝子変異によるカリウムチャネルの機能亢進、またはカルシウムチャネルの機能低下により、心筋細胞レベルでは再分極促進による活動電位持続時間の短縮をきたし、心電図上QT短縮を呈します。

QT短縮症候群症例における薬物治療の目的は、併発する心房細動と心室不整脈の予防にあります。

植込み型除細動器治療中に心室不整脈の再発を繰り返す症例、植込み型除細動器治療の適応であるが何らかの理由で導入できない症例では心室細動予防の目的で薬物治療を考慮します。

それではQT短縮症候群の薬物治療についてご説明します。

これまでの報告ではキニジンの有効性を示したものが多く、第一選択にあげられています。

III群抗不整脈薬(カリウムチャネル遮断薬)の効果は限定的とされますが、これは薬物治療を行った症例の多くがカリウムチャネル遮断薬の効果が限定的な遺伝子型(SQT1など)であったことにも関係する可能性があり、いちがいにすべての症例に効果がないとはいえません。

2013年のHeart Rhythm Society/European Heart Rhythm Association/ Asia Pacific Heart Rhythm Society 合同ステートメントでは、QT短縮症候群に対する薬物治療の適応について以下のように述べています。

すなわち、クラスIIb(推奨クラス分類としてデータ、見解から有用性、有効性がそれほど確立されていない)として、①無症候性のQT短縮症候群で、突然死の家族歴がある例にはキニジンの使用が考慮されます。
②無症候性のQT短縮症候群で、突然死の家族歴がある例にはソタロールの使用が考慮されます。

一方、2015年のEuropean Society of CardiologyガイドラインはクラスIIb(推奨クラス分類としてデータ、見解から有用性、有効性がそれほど確立されていない)として、①植込み型除細動器の適応があるQT短縮症候群であるが、植込み型除細動器治療が導入できない理由があるか、または植込み型除細動器治療を拒否している例への、キニジンまたはソタロールによる治療、②無症候性のQT短縮症候群で、突然死の家族歴がある例へのキニジンまたはソタロールの使用をあげています。

Gaitaらはフレカイニド、ソタロール、イブチジル、キニジンのQT延長効果と心室不整脈予防効果を検討しています。フレカイニドはQRS幅延長に伴いQT間隔を軽度延長させましたが、ソタロールとイブチジルにはQT延長効果がみられませんでした。一方、キニジンは QT間隔を 263±12 msecから 362±25 msecに延長させ、心拍数変動に伴うQT間隔のadaptationを正常化させました。有効不応期も延長して心室細動は誘発されなくなり、1年の経過観察でキニジン治療群には不整脈イベントの再発はみられませんでした。

European Short QTレジストリーによる53症例を64ヵ月経過観察した研究では、予防的薬物治療を行わなかった症例での不整脈イベント発生は年間5%であったのに対し、キニジンを使用した症例でのイベント発生はみられなかったとしています。

その他、ごく限られた症例で心室細動に対するジソピラミド、イソプロテレノールの効果、心房細動に対するプロパフェノンの効果を報告したものがあります。

キニジンとソタロールについて詳細を説明します。

キニジン

キニジンはナトリウムチャネル遮断薬です。

ナトリウムイオンの経路を封鎖することで、心臓の異常な活動電位を起こりにくくします。
活動電位が収まるまでの時間を延長します。

心室細動を予防する薬物としてもっとも多くのエビデンスがあります。

心臓に作用して心筋の興奮をしずめ、脈の乱れを整えます。

欧米からの報告では、発作予防のためには600~900 mg/日が推奨されていますが、わが国での通常投与量は300 ~600 mg/日です。

通常、成人には1日3~6回に分けて投与します。
なお年齢・症状により適宜増減します。

飲み忘れた場合は絶対に2回分を1度に飲まないでください。
患者様の状態や処方医の方針により対応が異なってくるので、処方医の指示に従ってください。

主な副作用として、吐き気、嘔吐、頭痛、発疹、血圧低下、発熱、黄疸、浮腫、光線過敏症などが報告されています。
このような症状が発生したら、担当の医師または薬剤師に相談してください。

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用を止めて、すぐに医師の診療を受けてください。

  • 息苦しい、息切れ、疲れやすい、全身のむくみ [心不全]
  • 胸の痛み、不快感、めまい、動悸[高度伝導障害、心停止、心室細動]
  • 皮下出血、出血しやすい(鼻・歯ぐきなど)、あざ [血小板減少性紫斑病]
  • 発熱、のどの痛み、貧血症状[再生不良性貧血、溶血性貧血無顆粒球症、白血球減少、]
  • 疲れやすい、発熱、手足・膝の関節の痛み [SLE様症状]

ソタロール

ソタロールはカリウムチャネル遮断薬です。カリウムチャネル遮断薬は、心臓に出入りする金属イオンの内、カリウムイオンの通り道をブロックし、カリウムイオンの放出を抑え、異常な心筋細胞の活動を抑えます。

通常、成人には、ソタロール塩酸塩として1日80㎎から投与を開始して、効果が不十分な場合は1日320㎎まで漸増し、1日2回に分けて経口投与します。

飲み忘れた場合は、気が付いた時点ですぐに1回分を飲んでください。
ただし、次に飲む時間が近い場合は飲まないで、次に指示された時間から1回分を飲んでください。
絶対に2回分を1度に飲んではいけません。

主な副作用として、立ちくらみ、徐脈、頭痛、全身倦怠感、、吐き気、易疲労感などが報告されています。
このような症状が発生したら、担当の医師または薬剤師に相談してください。

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用を止めて、すぐに医師の診療を受けてください。

  • 動悸、胸痛、息切れ、圧迫感[心室頻拍、心室細動、Torsades de pointes]
  • 心停止、めまい、失神、[洞停止、完全房室ブロック]
  • 息切れ、全身のむくみ、起坐呼吸(横になるより座っている方が呼吸が楽)、[心拡大、心不全]

薬の服用方法は上に示す限りではありません。
必ず、主治医の方針に従ってください。

2022年2月7日更新「遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017年改訂版)」を主軸に書いています。
飲み忘れた時の対応と副作用は、各製薬会社発行のおくすりのしおりを参考にしています。