早期再分極症候群のお薬情報

早期再分極は健常人や若年アスリートによくみられる心電図として古くから知られており、J点(QRSからSTに至る部分)の上昇として、心電図でQRS下行脚のスラーある いはノッチを認めるものと定義されています。

2008年にHaïssaguerreらによって心室細動を伴う早期再分極症例がまとめられ 、Brugada症候群、QT延長症候群、QT短縮症候群を除いた特発性心室細動の206例のうち、31%で下壁または側壁誘導に0.1mV以上のJ点上昇を認める(健常群では5%)ことが報告され、初めて「早期再分極症候群(early repolarization syndrome: ERS)」という疾患概念が提唱されました。

図1.心電図波形

この心電図上の早期再分極は、前述のように健常人に認められることが多い心電図ですが、Rossoらは、0.1mV以上のJ点上昇が重要であり、さらに心電図V4~V6誘導での変化は診断価値が低く、下壁誘導あるいはI、aVL誘導でのJ点上昇に注目すべきであると報告しています。現在では0.1mVのJ点上昇を隣接2誘導以上に認める場合を早期再分極とよぶことが多いですが、論文によっては0.2mVとしているものもあります。

早期再分極症候群は家族性の発症が報告されているものの、心室細動を生じる他の疾患で同定される原因遺伝子と重複しているものも多く、現時点では単一遺伝子異常での説明は困難です。

早期再分極症候群は、Brugada症候群との類似性が多いです。

類似点としては、男性優位、初発イベントの好発年齢が30~50歳、ナトリウム・カリウム・カルシウムイオンチャネルに関する遺伝子変異との関連の報告あり、心電図の動的変化が大きい、薬剤キニジン・べプリジル・イソプロテレノール・シロスタゾール効果あり、ペーシングによる心拍上昇効果あり、迷走神経亢進による心電図変化の増強あり、などがあげられます。

逆に相違点としては、Brugada症候群は関与する領域が右室流出路であるのに対し、早期再分極症候群は左室下側壁です。
影響のある心電図誘導が、Brugada症候群ではV1~V3であるのに対し、早期再分極症候群ではII、III、aVF、V4~V6、I、aVLです。
加算平均心電図でレイトポテンシャルを認める割合がBrugada症候群では高いのに対し、早期再分極症候群では低いです。
ナトリウムチャネル遮断薬による心電図変化がBrugada症候群ではJ波の増高であるのに対し、早期再分極症候群ではJ波の減高です。     

それでは早期再分極症候群の薬物治療にはどういったものがあるでしょうか?

Brugada症候群に有効な薬物は一般的に早期再分極症候群にも有効です。イソプロテレノール点滴静注はストームの抑制にもっとも有効な薬物です。その後の内服薬としてはキニジンの有効性が高いです。植込み型除細動器の適応がありながら植込みに同意が得られない例への二次予防目的での処方も考慮されますが、長期的な有効性は不明です。日本人にはキニジンによる悪心や下痢など消化器系副作用が多いことも知られています。ホスホジエステラーゼIII阻害薬のシロスタゾールの有効性も報告されており、処方を考慮してよいです。シロスタゾールとベプリジルの併用が有効との報告もあります。

心室細動ストーム時の治療

Brugada症候群において心室細動ストームが発生した場合、カルシウム電流を増加させ、また心拍数増加に伴い一過性外向きカリウム電流を抑制するβ刺激薬、イソプロテレノールが有効です(保険適用外)。

わが国からの報告では、イソプロテレノール低用量1~2 μgを急速静注投与し、その後0.15 μg/分持続点滴、または0.003~0.006 μg/kg/分持続点滴が有効です。

主な副作用として、頻脈、心悸亢進(動悸)などが報告されています。
このような症状が発生したら、担当の医師または薬剤師に相談してください。

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。このような場合には、使用を止めて、すぐに医師の診療を受けてください。

  • 胸痛、動悸、息切れ[心室性頻拍、心室性期外収縮、致死的不整脈]
  • 脱力感、呼吸困難、手足の麻痺 [血清カリウム値低下]
  • 圧迫感、胸痛、冷汗[心筋虚血]

心室細動の予防治療

キニジン

心室細動を予防する薬物としてもっとも多くのエビデンスがあります。
心臓に作用して心筋の興奮をしずめ、脈の乱れを整えます。

ナトリウムイオンの経路を封鎖することで、心臓の異常な活動電位を起こりにくくします。
活動電位が収まるまでの時間を延長します。

また一過性外向きカリウム電流を抑制する薬理作用を有します。

欧米からの報告では、発作予防のためには600~900 mg/日が推奨されていますが、わが国での通常投与量は300 ~600 mg/日です。

通常、成人には1日3~6回に分けて投与します。なお年齢・症状により適宜増減します。

飲み忘れた場合は絶対に2回分を1度に飲まないでください。患者様の状態や処方医の方針により対応が異なってくるので、処方医の指示に従ってください。

主な副作用として、吐き気、嘔吐、頭痛、発疹、血圧低下、発熱、黄疸、浮腫、光線過敏症などが報告されています。このような症状が発生したら、担当の医師または薬剤師に相談してください。

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用を止めて、すぐに医師の診療を受けてください。

  • 息苦しい、息切れ、疲れやすい、全身のむくみ [心不全]
  • 胸の痛み、不快感、めまい、動悸[高度伝導障害、心停止、心室細動]
  • 皮下出血、出血しやすい(鼻・歯ぐきなど)、あざ [血小板減少性紫斑病]
  • 発熱、のどの痛み、貧血症状[再生不良性貧血、溶血性貧血無顆粒球症、白血球減少、]
  • 疲れやすい、発熱、手足・膝の関節の痛み [SLE様症状]

シロスタゾール(保険適用外)

もとは血流を改善する薬で不整脈に対する効能効果はありません。

ホスホジエステラーゼIIIの阻害薬で、カルシウム電流を増加させ、また心拍数増加により一過性外向きカリウム電流を減少させ、発作を予防します。

200 mg/日の投与で発作が抑制できると報告されています。

通常、成人には1回100㎎を1日2回経口投与します。なお年齢・症状により適宜増減します。

飲み忘れた場合は、気がついた時点で1回分を飲んでください。ただし、次の飲む時間が近い場合は、忘れた分を飲まないで、次の飲む時間に1回分を飲んでください。絶対に2回分を一度に飲んではいけません。

主な副作用として、発疹、皮疹、かゆみ、頭痛・頭重感、消化管出血、胃・十二指腸潰瘍(みぞおちの痛み、吐き気、黒色便)、心房細動・上室性頻拍・上室性期外収縮・心室性期外収縮などの不整脈、動悸、頻脈、ほてり、眠気、めまい、不眠、しびれ感、腹痛、吐き気・嘔吐、食欲不振、頻尿、浮腫、胸痛、耳鳴、倦怠感、下痢、胸やけ、発熱、間質性肺炎腹部膨満感、味覚異常、皮下出血などが報告されています。このような症状に気づいたら、担当の医師または薬剤師に相談してください。

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用を止めて、すぐに医師の診療を受けてください。

  • 筋肉痛、頭痛・のどの痛み、寒気や震えを伴って高熱が出る[無顆粒球症、血小板減少、汎血球減少]
  • 急激な前胸部の圧迫感・胸痛、呼吸困難、全身のむくみ、動悸・息切れ[心筋梗塞、狭心症、うっ血性心不全、心室頻拍]
  • 食欲不振、全身倦怠感、皮膚や結膜などの黄染(黄色くなる)[黄疸、肝機能障害]
  • 腹痛、頭痛、意識障害 [出血(肺出血、消化管出血、脳出血などの頭蓋内出血、鼻出血、眼底出血など)]
  • から咳、発熱、呼吸困難[間質性肺炎]

ベプリジル

心筋の異常な収縮を抑えることにより、脈の乱れを整えます。
カルシウムイオンの経路をブロックすることで、血管の収縮を防ぎます。

また一過性外向きカリウム電流を含む複数のカリウムチャネルを抑制します。
他にもナトリウムチャネルをアップレギュレーションすることによりナトリウム電流が増加し、発作が予防されます。

通常200 mg/日の投与で有効ですが、心臓ナトリウムイオンチャネルの構成タンパク遺伝子(SCN5A)変異を有する例では100 mg/日の投与でも有効との報告もあります。またシロスタゾールとの併用が有効であったとの報告もあります。

通常、成人には1日2回に分けて経口投与します。なお年齢・症状により適宜減量します。

飲み忘れた場合は、気がついた時点で1回分を飲んでください。ただし、次の服用時間が近い場合は、忘れた分を飲まないで、次の服用時間に1回分を飲んでください。絶対に2回分を一度に飲んではいけません。

主な副作用として、動悸、頭痛、吐き気、発疹、倦怠感などが報告されています。このような症状が発生したら、担当の医師または薬剤師に相談してください。

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用を止めて、すぐに医師の診療を受けてください。

  • から咳、発熱、呼吸困難[間質性肺炎]
  • めまい、動悸、失神[心室頻拍(Torsades de pointesを含む)、心室細動、QT延長、洞停止、房室ブロック]
  • 貧血、全身倦怠感、発熱、下痢 [無顆粒球症]

参考文献

薬の服用方法は上に示す限りではありません。
必ず、主治医の方針に従ってください。
2022年2月7日更新「遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017年改訂版)」を主軸に書いています。飲み忘れた時の対応と副作用は、各製薬会社発行のおくすりのしおりを参考にしています。