先天性QT延長症候群のお薬情報

先天性QT延長症候群とは?

先天性QT延長症候群は、QT間隔の延長とtorsade de pointes (TdP)とよばれる多形性心室頻拍を認め、失神や突然死を引き起こす症候群です。
QTc(Bazettの式で心拍数補正された補正QT間隔)が440msec以上のときQT延長と呼びます。

心電図波形

先天性QT延長症候群は、遺伝性不整脈のなかで最初に原因遺伝子が明らかになった疾患です。
Romano-Ward症候群では15の原因遺伝子が報告されています。

それぞれの疾患をLQT1~15と呼んでいます。
Jervell and Lange-Nielsen症候群では、2つの原因遺伝子が報告されており、それぞれの疾患をJLN1、2と呼びます。
遺伝子変異が同定される患者の90%以上は、LQT1、LQT2、LQT3の原因遺伝子であるKCNQ1、KCNH2、SCN5Aのいずれかに変異が同定されています。

治療(成人)

先天性QT延長症候群の治療は、①QT延長に伴って生じるTdP発生時の急性期治療と、②TdPや心停止・突然死を予防するための治療(予防的治療)に分けられます。

TdP発生時の急性期治療とTdPや心停止・突然死予防に分けて治療薬をご説明します。

TdP発生時の急性期治療

TdPは自然停止する場合と持続して心室細動に移行する場合があります。
心室細動に移行した場合は、ただちに電気的除細動が必要となります。

TdPの停止と急性期の再発予防には硫酸マグネシウムの静注(30~40 mg/kgを5~10分間で静注し、さらに1~5mg/minで持続点滴)が有効です。
β(ベータ)遮断薬の静注も有効ですが、患者によってはナトリウムチャネル遮断薬あるいはカルシウム拮抗薬がTdP停止に有効なこともあります。
徐脈がQT延長を増悪させTdPの発生を助長する場合には、一時的ペーシングで心拍数を増加させます。
また、低カリウム血症はTdP発生を助長するので是正します。

薬物治療

β遮断薬

心臓の動きをゆるやかにして、脈拍を下げます。
交感神経β受容体の働きをブロックすることで、心臓の過活動を抑制します。
β遮断薬の服用はQTcを著しく短縮させるわけではないですが、心イベントのリスクは有意に低下させます。

遺伝子型別では、LQT1とLQT2では有効性が確立され、LQT1例では74%、LQT2例でも63%の心イベントリスク低下効果が報告されています。
一方、LQT3においても女性でその有効性が報告されました。

2013年のHeart Rhythm Society/European Heart Rhythm Association/ Asia Pacific Heart Rhythm Society合同ステートメントでは新しく先天性QT延長症候群の薬物治療の適応が整理されました。

β遮断薬は失神や心室頻拍/心室細動の既往を有する例、および症状の有無に関係なくQTc≧470 msecの例で推奨となり、とくにLQT1とLQT2で有用とされました。
さらにQTc<470 msecの無症候例でも使用可となっており、β遮断薬の適応が拡大されています。

一方、β遮断薬の種類による効果の違いも報告されており、アテノロールやメトプロロールのようなβ1選択性のβ遮断薬よりも、β1非選択性のβ遮断薬であるプロプラノロールやナドロールの有効性が高いとされています。
とくにLQT2に対してはナドロールが有効とされています。

先天性QT延長症候群の女性患者における妊娠出産時については、LQT2女性では妊娠中・産後に心イベントが発生する確率が高いため、β遮断薬の継続が奨められています。
LQT1女性でも高リスク例では妊娠中もβ遮断薬を継続したほうがよいとする報告があります。

プロプラノロール

通常、成人は1回1錠(10㎎)を1日3回から開始し、効果不十分な場合は、1日6錠(60㎎)、9錠(90㎎)まで漸増します。
治療を受ける疾患、年齢、症状により適宜増減されます。

飲み忘れた場合は、気付いた時に出来るだけ早く飲んでください。
ただし、次の服用時間が迫っている場合は、1回分飛ばし、次の通常の服用時間に1回分を飲んでください。絶対に2回分を1度に飲んではいけません。

主な副作用として、発疹、徐脈、めまい、視力異常、蕁麻疹、涙液分泌減少、霧視などが報告されています。
このような症状が発生したら、担当の医師または薬剤師に相談してください。

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用を止めて、すぐに医師の診療を受けてください。

  • 意識障害、徐脈、脈がとぶ[徐脈、房室ブロック]
  • 倦怠感、全身のむくみ、呼吸困難[心不全]
  • 喘鳴、息切れ、呼吸困難[呼吸困難、気管支痙攣]
  • 失神、立ちくらみ、めまい[失神を伴う起立性低血圧]
  • 皮下出血、鼻や歯ぐきからの出血、あざ[血小板減少症、紫斑病]

ナドロール

通常、成人は1回1~2錠(30~60㎎)を1日1回服用しますが、年齢、症状により適宜増減されます。

飲み忘れた場合は、気付いた時に出来るだけ早く飲んでください。
ただし、次の服用時間が迫っている場合は、1回分飛ばし、次の通常の服用時間に1回分を飲んでください。絶対に2回分を1度に飲んではいけません。

主な副作用として、倦怠感、徐脈、めまい・立ちくらみ、発疹、ふらつき、息切れ・息苦しさ、霧視、かゆみ、涙液分泌減少などが報告されています。
このような症状が発生したら、担当の医師または薬剤師に相談してください。

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用を止めて、すぐに医師の診療を受けてください。

  • 全身のむくみ、呼吸困難[心不全]

ナトリウムチャネル遮断薬

心臓に作用して心筋の興奮をしずめ、脈の乱れを整えます。

ナトリウムイオンの経路を封鎖することで、心臓の異常な活動電位を起こりにくくします。
活動電位が収まるまでの時間を延長します。

LQT3例では、遅発性lNa遮断薬であるメキシレチンがQT間隔を短縮し、心イベントの予防に有効と考えられています。
LQT7(Andersen-Tawil症候群)例では、カテコラミン誘発性心室頻拍と同様にフレカイニドが有効です。

メキシレチン

通常、成人は1回2カプセル(100mg)を1日3回服用することから開始し、効果が不十分な場合は1回3カプセル(150mg)まで増量されます。
年齢・症状により適宜増減されます。

飲み忘れた場合は、気付いた時に出来るだけ早く飲んでください。
ただし、次の服用時間が迫っている場合は、1回分飛ばし、次の通常の服用時間に1回分を飲んでください。絶対に2回分を1度に飲んではいけません。

主な副作用として、食欲不振、吐き気、腹痛、紅斑、消化不良、嘔吐、全身の発疹、かゆみなどが報告されています。
このような症状が発生したら、担当の医師または薬剤師に相談してください。

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用をやめて、すぐに医師の診療を受けてください。

  • 脈の異常を感じる、失神(気を失う)、めまい[心室頻拍、房室ブロック]
  • 発熱、紅斑、水疱・びらん[紅皮症、中毒性表皮壊死症、皮膚粘膜眼症候群]
  • リンパ節の腫れ、発疹、発熱[過敏症症候群]
  • ない音が聞こえたりする、現実には存在しないものが見えたり、時間・場所がわからない [幻覚、錯乱
  • 全身けん怠感、尿量減少、むくみ[腎不全]

フレカイニド

通常、成人は1日2錠(100mg)から服用を開始し、効果が不十分な場合は4錠(200mg)まで増量し、1日2回に分けて服用します。
なお、年齢・症状により適宜減量されます。

飲み忘れた場合は、飲み忘れた分は飲まないで1回分を飛ばし、次に飲む時間に1回分を飲んでください。絶対に2回分を一度に飲んではいけません。

主な副作用として、心房細動、動悸、徐脈、胸部不快感、そう痒、発疹、悪心、めまい、頭痛、羞明(まぶしさ)、腹痛、複視(物が二重に見える)、視力異常などが報告されています。
このような症状が発生したら、担当の医師または薬剤師に相談してください。

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用を止めて、すぐに医師の診療を受けてください。

  • 皮膚や白目が黄色くなる、吐き気や嘔吐、食欲不振[黄疸、肝機能障害]
  • 動悸、めまい、失神、息切れ[心房粗動、心室頻拍、心室細動、洞停止、高度房室ブロック、一過性心停止、Adams-Stokes発作、心不全の悪化]

カルシウム拮抗薬

心筋の異常な収縮を抑えることにより、脈の乱れを整えます。

カルシウムイオンの経路をブロックすることで、血管の収縮を防ぎます。

カルシウム拮抗薬は早期後脱分極を抑制しTdPの発生抑制に寄与すると考えられています。
β遮断薬のようなエビデンスはないですが、β遮断薬のみでは再発を完全に抑制できない例に併用で処方される場合が多いです。
なおLQT8では有効例が報告されています。

ベラパミル

通常、成人は1回1~2錠(40~80mg)を1日3回服用しますが、治療を受ける疾患や年齢・症状により適宜減量されます。

飲み忘れた場合は、飲み忘れた分は飲まないで1回分を飛ばし、次に飲む時間に1回分を飲んでください。絶対に2回分を一度に飲んではいけません。

主な副作用として、便秘、発疹、歯肉肥厚、めまい、頭痛、血圧低下、吐き気、嘔吐などが報告されています。このような症状が発生したら、担当の医師または薬剤師に相談してください。

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用を止めて、すぐに医師の診療を受けてください。

  • 広範囲の平らな赤い発疹、発熱、口内炎、目の充血[皮膚粘膜眼症候群、多形滲出性紅斑、乾癬型皮疹]
  • 意識を失う、呼吸困難、めまい[意識消失、心不全、洞停止、房室ブロック、徐脈]

カリウム薬

低カリウム血症は外向きカリウムチャネル電流を減少させるため、QT延長の増悪因子の1つです。とくにLQT2では血清カリウム値を≧4.0 mEq/Lに保つことにより、心イベントを抑制するのに寄与すると考えられています。

カリウム製剤

通常、成人は1回1~3錠(300~900mg)を1日3回服用します。
なお、1回10錠(3g)まで増量されることがあります。

飲み忘れた場合は、気付いた時に出来るだけ早く飲んでください。
ただし、次の服用時間が迫っている場合は、1回分飛ばし、次の通常の服用時間に1回分を飲んでください。絶対に2回分を1度に飲んではいけません。

主な副作用として、みぞおちの重い感じ、胃腸障害、食欲不振、高カリウム血症(手足や唇のしびれ、筋力の減退、手足のまひ)、耳鳴り、頭がかっかするなどが報告されています。
このような症状が発生したら、担当の医師または薬剤師に相談してください。

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用を止めて、すぐに医師の診療を受けてください。

  • 胸の痛み、動悸、胸の不快感[心臓伝導障害]

治療(小児)

新生児の先天性QT延長症候群患者で、2:1房室ブロックを合併する重症例では、治療に難渋する場合が多いです。多くの患者でペースメーカ、植込み型除細動器植込みに加え、β遮断薬投与が必要ですが、それに加えてメキシレチン、フレカイニドなどの併用が必要となる場合が多いです。遺伝子型ではLQT2、LQT3に認めることが多いです。

後天性QT延長症候群

先天的な原因とは別に各種薬物、電解質異常、徐脈、種々の病態などが原因で、二次的にQT延長が起こり、まれにTdPまで発生することがあります。
これらは二次性QT延長症候群と総称されますが、日常診療では先天性QT延長症候群よりはるかに高い確率で遭遇します。

二次性QT延長症候群を引き起こす薬物としては、抗不整脈薬(キニジン、プロパフェノン、ソタロールなど)、向精神薬(ハロペリドールなど)、抗菌薬(エリスロマイシンなど)、抗真菌薬(イトラコナゾールなど)、抗アレルギー薬(テルフェナジンなど)、三環系抗うつ薬(イミプラミンなど)、抗がん薬(ドキソルビシンなど)など多様なものがあります。

実際、二次性QT延長症候群のなかには、KCNQ1、KCNH2、SCN5A、KCNE1、KCNE2などの遺伝子に変異を認める症例が続々と報告されており、これらの症例は潜在性の先天性QT延長症候群です。

二次性QT延長症候群は「後天性」という言葉よりもむしろ、「無症候性」あるいは「潜在性」のQT延長症候群という表現が妥当であると思われます。

治療

二次性QT延長症候群の患者に対しては、QT延長の要因を特定し、その曝露を回避することが治療の基本です。
QT延長の原因となる可能性がある被疑薬はすべて中止し、低カリウム血症や低マグネシウム血症などに対し電解質補正を行います。
失神あるいは前失神症状がありQT延長を呈している例、過度のQT延長(>500 msec、薬物の使用前あるいは通常のQT間隔から60 msec延長)を呈している例、心室期外収縮やT波の変化、高度徐脈(洞徐脈、洞ブロック、洞停止、房室ブロック)、心室内伝導遅延(QRS幅延長)を呈している例は、入院のうえ、電気的除細動がすぐ行える環境下で心電図モニターによる観察を行います。

心電図モニタリングは原因が除去されQT間隔が正常になるまで行います。
薬剤性の場合は被疑薬を中止して薬物が体内から除去されるか、あるいは安全性が保障されるまでモニタリングを行います。

薬の服用方法は上に示す限りではありません。
必ず、主治医の方針に従ってください。

参考文献

2022年2月7日更新「遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017年改訂版)」を主軸に書いています。
飲み忘れた時の対応と副作用は、各製薬会社発行のおくすりのしおりを参考にしています。