早期再分極症候群(ERS)

早期再分極症候群とは

心臓はポンプのように収縮と弛緩を繰り返して、血液を送り出しています。
心筋が収縮する時の電解質の変化を’脱’分極、次の収縮に備えて電解質が元に戻っていく変化を’再’分極と呼びます。

健康な人では、脱分極と再分極の時間は正常であるのに対して、早期脱分極ではその名の通り、再分極の始まるタイミングが早いという異常が見られます。

早期再分極症候群は、心電図において早期再分極を示す特徴的な波形(J 点の上昇)が見られ、心筋梗塞などの器質的な病気がなく、心室細動や心室頻拍などの危険な不整脈を起こしたことがある場合に診断されます。

心電図の早期再分極という所見は、健康な人や若いアスリートに見られやすい波形です。
ブルガダ症候群の一種ではないかとする説もありますが、全く別物とする報告もあり、関連性はわかっていません。
ブルガダ症候群よりは、不整脈の発生頻度は少ないと推測されています。

早期再分極症候群の原因

心筋細胞での電解質バランスの異常や、心臓の伝導系(心臓の動きを制御する電気刺激の通り道)異常の可能性が報告されています。

これまでに、電解質のカリウム、カルシウム、ナトリウムを制御する遺伝子の異常がわかっています。

早期再分極症候群の症状

不整脈のない時は無症状です。

心房細動を起こした場合は、動悸やめまいなど比較的軽い症状が起きます。
危険な不整脈を起こした場合は、失神、心肺停止や突然死の可能性があります。

疫学

有病率

早期再分極症候群の有病率はわかっていません。

心電図の早期再分極という所見は、一般人の3%-24%程度に見られ、若年男性やアスリートに多い傾向があります。

危険な不整脈を起こしたことのある患者さんでは、早期再分極の所見は23%-44%と高い傾向にあります。

発症年齢・性別

有病率は、男性に多い傾向があります(男性6:女性4)。

危険な不整脈や突然死の発生は30代でもっとも多く、その理由として男性ホルモンとの関連が考えられています。

家族歴

早期再分極症候群の患者さんの約10%で、突然死の家族歴を持っていることが報告されています。

早期再分極症候群の家族歴がある場合では、同じ家系の10人とすると1人-6人程度の頻度で、早期再分極症候群を持っていると報告されています。

予後

早期再分極症候群には、心電図の特徴による分類があり、その分類によって予後が変わることがわかっています。

具体例として、早期再分極の波形が下壁誘導(Ⅱ、Ⅲ、aVfの波形)と側壁誘導(V4、V5、V6の波形)の両方に見られる場合と、ノッチ型とスラー型の両方の特徴がある場合は、突然死が多いことがわかっています。

また、失神を繰り返している場合には、将来的に突然死する可能性が高いといわれています。
早期再分極症候群と診断されても、予後が良いタイプなのか、悪いタイプなのかを確認することが大切です。

検査

臨床症状

不整脈がない場合は、無症状です。

心房細動の場合は、動悸やめまいであり、危険な不整脈を引き起こした場合には、失神、心肺停止で、心臓突然死の可能性があります。

不整脈は、30歳-50歳代に多く、やや男性に多いことが特徴です。

心電図

心電図において、J点の上昇をともなうスラー型またはノッチ型のパターンを早期再分極と判断します。早期再分極症候群では、複数の誘導で早期再分極の所見が見られます。

早期再分極の所見自体は、健康な人でも5%〜20%程度に認められますが、これまで不整脈の症状を認めたかどうか、心臓突然死の家族歴があるかどうかを含めて、早期再分極症候群の診断をします。

電気生理学的検査

電気生理学的検査を行うことがありますが、有用性は限られています。

心室細動を誘発する検査をして、心室細動が起きた患者さんと起きなかった患者さんでは、将来的に危険な不整脈を引き起こす頻度には違いを認めなかったと報告されています。

ただし、下記に示す通りアブレーション治療の研究を進めるためには、電気生理学検査は必要な検査です。

遺伝子検査

現在は保険適用となっておりません。
遺伝子診断や治療方法について、今後の研究が待たれます。

診断について

心電図の所見に加えて、危険な不整脈を起こしたことがある、原因不明の心肺停止を起こしたことがある、心臓突然死の家族歴がある、などを踏まえて早期再分極症候群と診断されます。

治療

不整脈発作時の治療

危険な不整脈により心肺停止となっている場合には、心肺蘇生法をしつつ速やかに電気的除細動(AED)や薬物的除細動(抗不整脈薬)が必要となります。

心房細動などの軽い不整脈の場合も、電気的除細動や薬物的除細動を行います。

生活指導

有効な生活指導はありません。

薬物治療

不整脈予防を目的とした薬物治療では、抗不整脈薬のうち、ナトリウムチャネル遮断薬である‘キニジン’の有効性が高いといわれています。

他に、ホスホジエステラーゼⅢ阻害薬などの報告もあります。

非薬物療法

埋め込み型除細動器

危険な不整脈が起きた時に、自動で電気的除細動をする機械を、あらかじめ体内に埋め込む治療です。危険な不整脈により心肺停止になったことがある場合には、埋め込み型除細動器が必要となります。

また、失神や痙攣などの症状があり、若年性の心臓突然死の家族歴がある場合には、埋め込み型除細動器が必要になることがあります。

無症状でも、突然死の危険性が高い心電図所見を認める場合では、埋め込み型除細動器を検討することがあります。

カテーテルアブレーション

不整脈の原因となる心臓の伝導系(電気刺激の通り道)に対して、カテーテルを使用した電気刺激で焼き切る治療法です。

電気生理学的検査を行って、アブレーション治療を実施できるかどうかと、焼き切る場所を決めます。アブレーション治療の有効性を示す報告はありますが、今後のさらなる研究が待たれます。

周りの人からの理解

早期再分極症候群では、多くの方が無症状で普段通りの生活を行っています。
症状は、急に気を失うことや心肺停止で、突然死する可能性があります。

危険な不整脈で心肺停止となった場合、近くの人の心肺蘇生法が最も大切になります。
講習会などを通して、心肺蘇生法を理解しておいてほしいと思います。

参考文献