カテコラミン誘発多形性心室頻拍のお薬情報

カテコラミン誘発多形性心室頻拍は比較的まれな不整脈であり、運動、カテコラミン(脳、副腎髄質や交感神経に存在する神経伝達物質の総称でアドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンの3つが知られています)投与などにより引き起こされる心筋細胞内のカルシウムイオン過剰に伴う遅延後脱分極が不整脈の発生に関与しています。

カテコラミン誘発多形性心室頻拍症例における重要な初発症状は失神であり、通常、運動あるいは感情ストレスに伴って発生します。

最初の失神は20歳まで(主に7~12歳)に発生することが多いです。
初発症状が心停止の場合もあり、乳幼児突然死症候群や特発性心室細動の原因にカテコラミン誘発多形性心室頻拍が含まれます。

Sumitomoらの報告によれば、カテコラミン誘発多形性心室頻拍と診断された29例中、失神で見出されたのが23例(79%)、心停止が2例(7%)でした。

カテコラミン誘発多形性心室頻拍の原因でもっとも多いのは、リアノジン受容体のRyR2の遺伝子変異です。
この疾患をCPVT1と呼び、全体の50~60%を占めます。

2つ目にカルセクエストリン蛋白(CASQ2)があります。この疾患をCPVT2と呼びます。
全体の1%です。

これ以外にカルモジュリン(CALM1、CALM2、CALM3)、トリアジン(TRD)、TECRLの変異も報告されています。

これら疾患をCPVT3~5と呼びます。
CPVT3~5は全体の1パーセントにも満ちません。

有病率は多く見積もって1/1万人程度ではないかといわれていますが、はっきりした有病率はわかっていません。
カテコラミン誘発多形性心室頻拍の安静時心電図は正常であり、心臓超音波検査、MRI、CTなどでも構造的異常は認められないため、正確な有病率を知ることは困難です。

カテコラミン誘発多形性心室頻拍は器質的心疾患を認めず、心電図が正常な40歳未満の例で、運動もしくはカテコラミン投与により、他に原因が考えられない二方向性心室頻拍、多形性心室頻拍、多形性心室期外収縮が誘発される場合、および/またはカテコラミン誘発多形性心室頻拍に関連する遺伝子変異を認める場合に診断されます。

カテコラミン誘発多形性心室頻拍の薬物治療についてご説明します。

遺伝性不整脈のなかでは、カテコラミン誘発多形性心室頻拍はきわめて致死性の高い疾患であるために、運動制限や精神的なストレスの回避といった生活制限に加えて、心室不整脈の予防のための薬物治療がすべての有症候例ならびに原因となる遺伝子変異を有する無症候例において推奨されます。

不整脈発作の予防のためにβ遮断薬とフレカイニドの投与が推奨されます。
低用量での投与は不整脈発作の危険を高めるので、忍容性を示すかぎり投与量を増加します。
服薬中断から不整脈発作をきたす確率が高く、服薬順守のための患者教育と血中薬物濃度測定が必要です。
また、運動負荷試験やホルター心電図検査を定期的に行って、薬物の効果を判定することも重要です。

β遮断薬

カテコラミン誘発多形性心室頻拍は身体的ならびに精神的ストレスを契機に不整脈発作をきたします。
このため、発作予防のために内因性交感神経刺激作用のない非選択性β遮断薬が第一選択薬として用いられます。

β遮断薬の適応については、2013年 Heart Rhythm Society/European Heart Rhythm Association/ Asia Pacific Heart Rhythm Society合同ステートメントのカテコラミン誘発多形性心室頻拍の治療・管理基準を採用しています。

ナドロールは他のβ遮断薬と比較して有効性が高いとする研究がある一方で、有効性に差がないという研究もあります。
服薬順守のためには、1日1回投与の薬剤が望ましいです。

β遮断薬は、心臓の動きをゆるやかにして、脈拍を下げます。
交感神経β受容体の働きをブロックすることで、心臓の過活動を抑制します。

ナドロール

通常、成人は1回1~2錠(30~60㎎)を1日1回服用しますが、年齢、症状により適宜増減されます。

飲み忘れた場合は、気付いた時に出来るだけ早く飲んでください。
ただし、次の服用時間が迫っている場合は、1回分飛ばし、次の通常の服用時間に1回分を飲んでください。
絶対に2回分を1度に飲んではいけません。

主な副作用として、倦怠感、徐脈、めまい・立ちくらみ、発疹、ふらつき、息切れ・息苦しさ、霧視、かゆみ、涙液分泌減少などが報告されています。このような症状が発生したら、担当の医師または薬剤師に相談してください。

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用を止めて、すぐに医師の診療を受けてください。

  • 全身のむくみ、呼吸困難[心不全]

プロプラノロール

通常、成人は1回1錠(10㎎)を1日3回から開始し、効果不十分な場合は、1日6錠(60㎎)、9錠(90㎎)まで漸増します。
治療を受ける疾患、年齢、症状により適宜増減されます。

飲み忘れた場合は、気付いた時に出来るだけ早く飲んでください。
ただし、次の服用時間が迫っている場合は、1回分飛ばし、次の通常の服用時間に1回分を飲んでください。
絶対に2回分を1度に飲んではいけません。

主な副作用として、発疹、徐脈、めまい、視力異常、蕁麻疹、涙液分泌減少、霧視などが報告されています。
このような症状が発生したら、担当の医師または薬剤師に相談してください。

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用を止めて、すぐに医師の診療を受けてください。

  • 意識障害、徐脈、脈がとぶ[徐脈、房室ブロック]
  • 倦怠感、全身のむくみ、呼吸困難[心不全]
  • 喘鳴、息切れ、呼吸困難[呼吸困難、気管支痙攣]
  • 失神、立ちくらみ、めまい[失神を伴う起立性低血圧]
  • 皮下出血、鼻や歯ぐきからの出血、あざ[血小板減少症、紫斑病]

アテノロール

通常成人には 1 錠(50mg)を1日1回経口投与します。
なお、年齢、症状により、適宜増減できますが、最高量は1日1回2錠(100mg)までとします。

飲み忘れた場合は気がついた時にできるだけ早く飲んでください。
ただし、次の服用時間がせまっている場合は、1回分とばし、次の通常の服用時間に1回分を飲んでください。絶対に2回分を一度に飲んではいけません。

主な副作用として、徐脈、めまい、視力異常、霧視、涙液分泌減少、倦怠感、発疹、かゆみなどが報告されています。
このような症状が発生したら、担当の医師または薬剤師に相談してください。

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用を止めて、すぐに医師の診療を受けてください。

  • 全身のむくみ、倦怠感、呼吸困難[心不全、心胸比増大]
  • 徐脈、意識障害、脈がとぶ[徐脈、洞房ブロック、房室ブロック]
  • 失神、立ちくらみ、めまい[失神を伴う起立性低血圧]
  • 息切れ、喘鳴(ヒューヒュー音)、呼吸困難[呼吸困難、喘鳴、気管支痙攣]
  • あざ、皮下出血、鼻や歯ぐきからの出血[紫斑病、血小板減少症]

ナトリウムチャネル遮断薬

フレカイニド

フレカイニドはナトリウムチャネル遮断薬です。
β遮断薬投与中に不整脈発作をきたした例には、フレカイニドの追加を考慮します。

カテコラミン誘発多形性心室性頻拍と診断され、β遮断薬の投与にもかかわらず再発する失神、多形性もしくは二方向性心室頻拍を認める症例に適用されます。
フレカイニド単独治療の効果がいくつかの研究で示されており、副作用などでβ遮断薬が投与できない例においては、フレカイニドの単独投与も有効かもしれません。

ナトリウムチャネル遮断薬は、心臓に作用して心筋の興奮をしずめ、脈の乱れを整えます。
ナトリウムイオンの経路を封鎖することで、心臓の異常な活動電位を起こりにくくします。
活動電位が収まるまでの時間を延長します。

通常、成人は1日2錠(100mg)から服用を開始し、効果が不十分な場合は4錠(200mg)まで増量し、1日2回に分けて服用します。
なお、年齢・症状により適宜減量されます。

飲み忘れた場合は、飲み忘れた分は飲まないで1回分を飛ばし、次に飲む時間に1回分を飲んでください。
絶対に2回分を一度に飲んではいけません。

主な副作用として、心房細動、動悸、徐脈、胸部不快感、そう痒、発疹、悪心、めまい、頭痛、羞明(まぶしさ)、腹痛、複視(物が二重に見える)、視力異常などが報告されています。
このような症状が発生したら、担当の医師または薬剤師に相談してください。

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用を止めて、すぐに医師の診療を受けてください。

  • 皮膚や白目が黄色くなる、吐き気や嘔吐、食欲不振[黄疸、肝機能障害]
  • 動悸、めまい、失神、息切れ[心房粗動、心室頻拍、心室細動、洞停止、高度房室ブロック、一過性心停止、Adams-Stokes発作、心不全の悪化]

カルシウムイオンチャネル遮断薬

ベラパミル

ベラパミルはカルシウムイオンチャネル遮断薬です。
β遮断薬へのベラパミル追加の効果が少数例にて報告されていますが、その不整脈発作の抑制効果は現時点では限定的です。
十分量の薬物治療ならびに非薬物治療を行っても不整脈が再発する例では投与を考慮してもよいかもしれません。

カルシウムチャネル遮断薬は、心筋の異常な収縮を抑えることにより、脈の乱れを整えます。
カルシウムイオンの経路をブロックすることで、血管の収縮を防ぎます。

通常、成人は1回1~2錠(40~80mg)を1日3回服用しますが、治療を受ける疾患や年齢・症状により適宜減量されます。

飲み忘れた場合は、飲み忘れた分は飲まないで1回分を飛ばし、次に飲む時間に1回分を飲んでください。
絶対に2回分を一度に飲んではいけません。

主な副作用として、便秘、発疹、歯肉肥厚、めまい、頭痛、血圧低下、吐き気、嘔吐などが報告されています。
このような症状が発生したら、担当の医師または薬剤師に相談してください。

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用を止めて、すぐに医師の診療を受けてください。

  • 広範囲の平らな赤い発疹、発熱、口内炎、目の充血[皮膚粘膜眼症候群、多形滲出性紅斑、乾癬型皮疹]
  • 意識を失う、呼吸困難、めまい[意識消失、心不全、洞停止、房室ブロック、徐脈]

参考文献

薬の服用方法は上に示す限りではありません。
必ず、主治医の方針に従ってください。

2022年2月7日更新「遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017年改訂版)」を主軸に書いています。

飲み忘れた時の対応と副作用は、各製薬会社発行のおくすりのしおりを参考にしています。