先天性QT延長症候群

先天性QT延長症候群とは

QT延長症候群は心筋細胞内の電解質異常を原因として、心電図でのQ波とT波の間隔が延長する病気であり、不整脈の可能性が高い病気です。

Torsades de Pointes (トルサード・ド・ポアント)と呼ばれる多形性心室頻拍をきっかけとして、心室細動などの危険な不整脈から心臓突然死につながる可能性があります。

“先天性”QT延長症候群は、心筋細胞内の電解質を調節する遺伝子の異常が原因であり、親から子へ遺伝する可能性があります。

先天性聾(耳の障害)がある場合は、Jervell and Lange-Nielsen(ジャーベン・ランゲ-ニールセン)症候群と呼ばれます。
他に、薬の副作用が原因となっている薬剤性QT延長症候群があります。

先天性QT延長症候群の原因

心筋細胞内の電解質を調節する遺伝子が変異することで、心筋の電解質に異常を来し不整脈が起きやすい状態となります。

電解質の異常は、心電図でQTの延長として現れます。
患者さんの半数異常で原因遺伝子の変異がわかっていて、先天性QT延長症候群では15種類、先天性聾を伴うJervell and Lange-Nielsen症候群では2種類が報告されています。

変異する遺伝子によって、不整脈の種類や心電図に現れる波形などに違いがあります。

先天性QT延長症候群の症状

不整脈を起こしていないときは無症状です。

Torsades de Pointes(多形性心室頻拍)を起こすと、失神やけいれん発作が起きます。

これは心拍が速くなりすぎることで、血圧が低下してしまうことが原因です。多くの場合は自然停止し自覚症状は治ります。

しかし、一部の患者さんではTorsades de Pointesから危険な不整脈(心室細動)に移行し、心肺停止、心臓突然死となる可能性があります。

疫学

有病率

およそ0.05%-0.1%程度と推定されています。
年齢によって有病率が多少変化し、中学1年生の有病率が1,200人に1人程度と最も高くなっています。

発症年齢・性別

不整脈は、乳幼児から成人期まで幅広い年齢で起こす可能性がありますが、全体の9割の患者さんが40歳未満での発症です。
特に、小学生から中学生までに多い傾向があります。

危険な不整脈は、1−12歳では男児5%、女児1%と、男児で多い傾向があります。

先天性QT延長症候群の有病率は、女性に多い傾向があります。
これは、女性で遺伝率が高いためと考えられています(遺伝率 男性45%、女性55%)

家族歴

家族歴とは、血縁関係の家族が同じ病気を持っていることです。

先天性QT延長症候群は常染色体遺伝ですが、遺伝確率は50%程度より少し高い(57%程度)と考えられています。

遺伝子変異がある患者さんの85%は親からの遺伝が原因で、15%が自然発症です。
そのため、多くの患者さんは家族歴があるといえます。

予後

初めて失神を起こしてから治療しなかった場合、1年間に死亡する確率は20%程度です。
適切な治療をしている場合、15年以内に死亡する確率は1%程度とされています。

しかし、乳児期に危険な不整脈を引き起こした場合は、治療効果が乏しい可能性があり、予後が不良と考えられています。

一方で不整脈を起こさずに生涯を終えるケースもあります。
先天性QT延長症候群の原因遺伝子に変異があったとしても、10−40%の患者さんは心電図変化や不整脈を認めません。

検査

臨床症状

不整脈が起きていない場合は無症状ですが、Torsades de Pointesでは失神や痙攣発作、危険な不整脈では心肺停止の状態となります。

変異する遺伝子の種類によって、不整脈のきっかけが異なることがわかっています。

例えば、LQT1(先天性QT延長症候群の種類)では水泳・ランニングや興奮、LQT2では音刺激(目覚まし時計・電話のベル音)、LQT3では睡眠中に不整脈を起こしやすいといわれています。

不整脈による症状とともに、不整脈のきっかけを詳細に確認して診断につなげていきます。

心電図

最も基本的な検査です。

心電図でのQ波、T波の間隔や形の変化から診断し、さらには不整脈の引き起こしやすさを判定します。変異する遺伝子の種類によって、特徴的な心電図が異なるため、細かい分析を行います。

ただし、検査した時の状態(心拍数や年齢)によっては、心電図変化がわかりづらかったり、心電図変化を認めなかったりと、正しく診断できない可能性があります。

そのため、学校検診や企業検診などの定期的な心電図検査が重要になります。

負荷試験

心電図変化をわかりやすい状態にするために、さまざまな負荷をかける検査です。

具体的には、仰臥位から急に立ち上がる立位負荷、ウォーキングや筋力負荷などの運動負荷、カテコラミン(交感神経を刺激するホルモン)負荷、顔を水につける顔面浸水試験があります。

このような負荷をかけた状態で心電図検査をします。

遺伝子検査

先天性QT延長症候群では、およそ7割の患者さんが血液サンプルで遺伝子の変異を見つけることができます。

その中でも9割の患者さんでは、KCNQ1、KCNH2、SCN5Aの3つ遺伝子のうち、いずれかに変異があるため、この3つの遺伝子解析は保険適用となっています。

この検査で異常が出なかった場合、遺伝子研究所に血液サンプルを送付し詳細な解析を行うことがあります。
血縁関係のご家族の血液サンプルも使用することがあります。

治療

不整脈発作時の治療

危険な不整脈(心室細動や心室細動の前段階)の場合には、心肺蘇生法をしつつ速やかに電気的除細動(AED)や薬物的除細動(抗不整脈薬)が必要となります。

軽い不整脈の場合も、電気的除細動や薬物的除細動を行います。
心拍が遅いこと(徐脈)が原因でQT延長が悪化する場合がありますが、その場合にはペースメーカーを使用して脈を速くします。

生活指導

不整脈の予防では生活指導が重要です。

不整脈を起こしやすいタイプや、運動中に失神・けいれんを起こしたことのある患者さんは、激しい運動や水泳・マラソンなどを避けるようにします。

遺伝子変異の種類によって、不整脈を起こしやすい状況が違います。
例えば、LQT1では激しい運動、LQT2では音刺激(目覚まし時計・電話)を避けるようにします。
一方で、不整脈を起こしにくいと考えられる患者さんへの運動制限は、明確な基準ができていません。

薬の副作用で不整脈を引き起こす場合があるため、医療機関受診時にはQT延長症候群を持っていることを必ず伝えてください。
QT延長作用のある一部の抗生剤(エリスロマイシンなど)や、不整脈の頻度が増えてしまう注意欠陥・多動性障害(ADHD)治療薬を使う場合には、注意が必要です。

薬物治療

交感神経β受容体遮断薬、ナトリウムチャネル遮断薬、カルシウム拮抗薬などの抗不整脈薬と電解質のカリウム薬を使用します。

適切な薬物治療で、危険な不整脈が起きる確率をかなり下げることができますので、確実に薬を服用することが重要です。

非薬物治療

埋め込み型除細動器

薬物治療をおこなっていても危険な不整脈が起きる可能性が高い患者さんには、埋め込み型除細動器が適応となります。

具体的には、Torsades de pointesや失神を起こしたことがある場合、心臓突然死の家族歴がある場合、交感神経β受容体遮断薬の効果が乏しい場合が挙げられます。

埋め込み型除細動器を使用するには、留置する際に体に負担がかかりますし、留置した後にも除細動器への感染症など合併症があります。
そのため、必要性は慎重に判断します。

左心臓交感神経節切除

薬物治療の効果が不十分な場合で埋め込み型除細動器を使用することができない場合、左心臓交感神経節切除の有効性が海外のステートメントに記載されています。

しかし、日本では保険適用外であるため、ほとんど行われていません。

周りの人からの理解

不整脈予防のために生活指導を受けている患者さんがいますので、周りの人は病気と生活指導の内容について理解する必要があります。

激しい運動や音刺激、興奮などの情動ストレスが不整脈を引き起こすことがあるため、学校での指導方法や、就職後の仕事配分などには十分注意をお願いいたします。

また、確実な内服治療ができるように配慮をお願いします。

危険な不整脈を起こした場合、近くの人の心肺蘇生法が最も大切になります。
講習会などを通して、心肺蘇生法を理解しておいてほしいと思います。

参考文献