進行性心臓伝導障害(PCCD)

進行性心臓伝導障害とは

行性心臓伝導障害とは、基礎疾患のない若年者にみられる原因不明の進行性伝導障害です。
心臓の動きを調整する“電気刺激の起点”や“その伝導”に障害を来します。

心臓の動きは電気刺激によって制御されており、電気刺激の起点(洞結節の活動電位)から、電気刺激の通り道(伝導路)によって心臓全体に電気刺激が伝わるようになっています。
電気刺激の起点である洞結節に異常をきたすと洞不全症候群となり、伝導路に異常をきたすと障害の部位によって、洞房進出ブロック、房室ブロック、ヒス束下部ブロック、脚ブロックとなります。

進行性心臓伝導障害は、遺伝性要素のある原因不明の心臓伝導障害の疾患群ですが、後にブルガダ症候群、神経筋疾患(筋ジストロフィーなど)、拡張型心筋症と診断される患者さんもいます。
※先にブルガダ症候群、神経筋疾患、心筋症などと診断されていた場合は、進行性心臓伝導障害とはいいません。

進行性心臓伝導障害は、わかっていないことが多く、診断基準が統一されておらず、治療方法は限られています。

進行性心臓伝導障害の原因

進行性心臓伝導障害は、遺伝子変異が原因であると考えられていますが、原因遺伝子の解明までには至っていません。
これまでに、一部の患者さんで遺伝子のSCN5A(ブルガダ症候群の原因と同じ遺伝子)異常が報告されていますが、大半の患者さんで原因はわかっていません。

心臓伝導障害となりうる疾患として、自己免疫性疾患やサルコイドーシス、動脈硬化性疾患、ブルガダ症候群、神経筋疾患が報告されています。

新生児に見られる孤発性先天性房室ブロックは、9割以上で新生児ループス(新生児の自己免疫性疾患)が原因と考えられています。

進行性心臓伝導障害の症状

徐脈による脳虚血の症状がでます。徐脈の程度によって、無症状の場合もありますし、ふらつき、めまいなどの比較的軽い症状、失神や痙攣などの重い症状、さらには心停止から突然死の可能性があります。

疫学

有病率

一般人の有病率は0.2〜2.3%と地域ごとに大きくばらつきがあります。

生まれつき心臓の病気を持っていない方の心臓伝導障害は、小学校・高校検診で0.75%に認めたという報告があります。

孤発性先天性房室ブロックは、1.5−2万出生に対して1例です。

神経筋疾患では高率に伝導障害を合併します。筋緊張性ジストロフィでは、30%程度、エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィでは、45%程度の患者さんに心臓伝導障害を認めます。

発症年齢・性別

男児に多く、年齢とともに増加する傾向にあります。(有病率 小学生, 0.48%;高校生, 0.97%)

家族歴

伝導障害の家族歴は11%、突然死の家族歴は1.4%です。
遺伝性の強い家系が存在し、同一家系で平均16人の患者さんを認めたという報告もあります。

予後

進行性心臓伝導障害では、永久的ペースメーカー埋め込み術後の予後は良いと考えられますが、詳しいことはわかっていません。

小児における心臓伝導障害では、8割の患者さんが10歳までに永久的ペースメーカーの埋め込み術が必要となる一方で、予後は良好です。

エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィを合併する場合、ペースメーカー埋め込み術の割合は、20歳代で12%、30歳代では44%です。
筋緊張性ジストロフィⅠ型では、5.7年で6%の突然死を認めました。

遺伝子異常を認める患者さんでは、40歳以降で心機能低下・重症心室性不整脈を合併し、拡張型心筋症へ移行することがあります。
拡張型心筋症を合併した場合、2年での死亡率は約17%と報告されています。

ブルガダ症候群に心臓伝導障害を合併した場合は、予後が悪くなります。

検査

臨床症状

伝導障害の程度によって、無症状の場合から、ふらつき・めまいなどの比較的軽い症状、失神・痙攣などの比較的重い症状、心停止、心臓突然死にいたる可能性があります。

心電図

伝導障害を受ける場所によって、”○○ブロック”という所見が出ます。
(例:洞房ブロッック、房室ブロック、右脚ブロック、左脚ブロック、二束ブロックなど)

短時間の心電図検査で伝導障害が見つからなかった場合、24時間装着するホルター心電図を行うこともあります。

遺伝子検査

因遺伝子の種類や変異の頻度などがわかっておらず、リスク評価や治療指針に対して遺伝子検査の有用性は限られており、保険診療の対象となっていません。

ただし、進行性心臓伝導障害の家族歴がある場合は、遺伝子検査を推奨する場合があります。

診断について

上述の検査に加えて、失神など徐脈による症状を持つ家族、ペースメーカー埋め込み術を行った家族の有無を確認します。家族歴を持つことが、暫定的な診断基準の一つになっています。

心臓伝導障害を認めた時点で、70歳以上の場合(※1)、二次的な要因(他の心疾患、神経筋疾患、サルコイドーシス、自己免疫性疾患、動脈硬化性疾患)の診断がついている場合(※2)は、進行性心臓伝導障害とは診断されません。

※1 年齢について明確な基準はありません。
※2 先に進行性心臓伝導障害と診断されてから二次的な要因が明らかになっても、進行性心臓伝導障害の診断に変更はありません。

治療

徐脈の治療

重症の徐脈を認める場合には、体外式ペースメーカーの電気刺激によって、脈を速くします。

体外式ペースメーカーのリードを首や足の付け根の血管を通して心臓に留置し、体外式ペースメーカー本体に接続して使用します。
しばらく(数日〜数週間)経っても体外式ペースメーカーが外せないと判断したら、永久的ペースメーカーを体内へ埋め込みます。

将来的に心機能が悪くなったり、危険な不整脈(心室細動や心室頻拍)を起こしたりするため、除細動機能付きペースメーカー(ICD)や両心室ペースメーカー(心臓同期療法:CRT)などの高機能な機械を使用することが多いです。

生活指導

有効な生活指導はありません。

薬物治療

有効な薬物療法はありません。

周りの人からの理解

進行性心臓伝導障害の患者さんは、体内にペースメーカーを埋め込んでいることが多く、電波を発する電子機器(携帯電話やトランシーバなど)の使用など日常生活に注意があります。

進行性に心臓機能が低下して心不全となる可能性や、危険な不整脈によって心肺停止となる可能性があります。
体調が悪い時には無理しないように促したり、仕事量を減らしたり、救急車の手配をしたりなどのご援助をお願いします。

また、気を失った場合などには速やかな心肺蘇生法が必要となることがありますので、講習会などを通して心肺蘇生法を学んでいただきたいと思います。

参考文献